『キスの練習をしています また会える日のために』
イタリア在住の作家がロックダウン下で描いた、愛と祈りの物語
イタリア・ロンバルディア州に住む作家 工藤あゆみによる、ロングセラー「はかれないものをはかる」に続く待望の新作。
今作は2020年3月10日、イタリア全土に"IO RESTO A CASA(私は家にいる)"政策が施行されたその日からはじまりました。心も体も不安と恐怖と疲れの海に浸され、翻弄される厳しい日々の中にみつけた忘れがたい感情や覆い隠されていた気持ち。状況が悪化する中、心情の変化を日記のように綴った作品は、刻々と変化する新型コロナウィルスの感染拡大によって世界が不安に包まれる今、人々の心に希望の火を灯します。
出版社 : 青幻舎
発売日 : 2021/6/30
言語 : 日本語 イタリア語 英語
単行本(ソフトカバー) : 120ページ
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作者より
昨年の春、私が暮らすイタリアで新型コロナウイルス感染症の流行が始まりました。
それまではアジアの一部で流行している病気としか認識しておらず、その始まりは突然のことでした。
私は娘が生まれたことをきっかけにこの数年紙芝居の上演をしていて、2020年2月22日娘の通う幼稚園で8 0人の大人と子供があつまって紙芝居パーティーを開催しました。 また明日ね、と手をふって別れたその日の夜、私達が暮らすロンバルディア州が感染の中心地であることを知 り、次の日から罰則付きの様々な制限がはじまり学校も休校になりました。
それは2週間ほどで終わると私はなんとなく思っていたのですが2週間後の現実はロンバルディア州の都市封鎖(ロックダウン)でした。翌々日にはイタリア全土が国土封鎖になり、私はその日の夜から作品を描き始めました。 それは、日本で報道されていたイタリアについての記事は私が見たり感じていたものと同じではなく、それだけではない市民の日常を知ってもらいたいという衝動、そしてイタリアのことを忘れないでほしいという切実な願いからでした。
しかし状況は加速度的に悪くなり、1日に1000人の方が亡くなるような事態になるにつれ日本に現状を伝えたいという私の当初の想いは薄れていき、特にイタリアに暮らす人たちに向けて「私はこんな日々を過ごしています。あなたは元気ですか?どんな日々を 過ごしていますか?」という宛名のない手紙を手紙を書くような気持ちで制作するようになりました。 悲しみの中にいる人を慮りながら、そしてこの悲しみを経験した人たちがいずれこの作品を見ることを考慮しな がらかき続けました。
いつもの町から人だけが消えた光景。おしゃべりの声、笑い声、週末の喧騒‥.生活音はあるのにイタリアの音 が失われた心細さ。
命が数になってそれが増えたり減ったりすることに正面から向き合うことに疲弊し、そして麻痺してしまう怖さ。補償制度を探し求めてネットの海に翻弄される自分を情けなく思ったり。
家の中ではひたすら狼狽する私とは全く異なる反応を見せる夫と娘に救われたり、学んだり、時には私への熱烈なご執心から逃げ出したくなったりもしました。
キス、ハグ、握手。イタリアの日常挨拶が禁止になったことを娘に伝えた時、「じゃあこうすればいいね」とキスを してそれをふぅーっと吹いて私のほっぺに届けてくれました。
家に閉じ込められている非常事態に恐怖を感じていた私に、隔離によってウイルスから身を守られているという 視点を教えてくれたのも娘でした。私の知識と経験では行き止まりに感じて落ち込む事態でも娘は「じゃあこうしよう」に一直線にたどり着くことができたり、全く違う状況に映っていることは衝撃でした。
タイトル「キスの練習をしています また会える日のために」はその思い出と繋がっています。 今会うことができない人たちに私が伝えたい気持ちでもあります。
コロナ禍に関わらず人生には自分の力ではなんともできない状況が訪れます。力が弱って普段のことも手に負えないように感じる時もあります。 そんな時、この本を思い出してもらえたら、心を優しく応援する本になれたら嬉しく思います。
2021年6月
工藤あゆみ
¥1,980